Raynolds953ステンレスフレームとは何ぞや?

とtannneさんに呼ばれたので、錆びた押っ取り刀で。。。orz

Raynoldsとは?ってのはOKみたいなので、953を飛ばしてステンレスから。

ステンレスってのは「ステンレス・スティール」の後半の大事なところを省略した日本語で、皆さん流し台とか、スプーンとか「錆びない」とかって感じでしょうが、読んで字のごとく「さびが少ない鉄鋼」の事です。「錆びない」なら「ステンフリー」って事になります。どうでも良いですけど。
さびが少ないってどういう事かと言うと、錆びるんだけどその出来たさびが、強くて(安定で)薄くて金属光沢が残る性質を持ってる、ってことです。で、スプーンとかは大抵SUS304と言う我々自動車屋からすると、高級な*118-8と通常呼ばれる「鉄+18%Cr(クロム)+8%Ni(ニッケル)」と言う組成で出来ております。そうすると鉄はオーステナイトと言う結晶構造となってネバく加工し易くなり、かつ表面はCrの不動態膜*2ができて錆が進まないって事になるんです。で、スプーンとか成形がし易くっていつまでもキラキラと言う事になる。

で、ここで「スティール」にも少し留意して下さい。「鉄鋼」であって「鉄」じゃあないんです。鉄鋼の基本は「鉄」と「炭素」です。私ゃ大学では工学部鉄鋼冶金第三講座と言うところに属しておりましたが、鉄に炭素を混ぜて温度をかけて、冷やし方を変えると実に様々な結晶構造*3と金属組織*4が得られるんです。
想像し易いところでは日本刀の刀鍛冶ですね。玉鋼と言う鉄と炭素の混ぜ物を作って、それを鍛える。つまり叩いてその力で溶けた炭素量の高い鉄をはじき飛ばしてだんだん炭素量を下げて行く。と同時に鉄の組織が伸ばされて竹の繊維みたいに鍛流線を作って靭性も加えて行く。で、最適な炭素量になったところで加熱⇒焼き入れしてマルテンサイトと言う最強の鉄を刃部に生じさせる。と言うような事が出来るわけです。ただ、炭素だけでは限界があるので、そこに他の特性を持つ元素を加えて、添加量や加工度合いや熱処理条件等を変えて、伸びと強さ(=硬さ)とロウ付けや溶接等の熱に対する感受性、それから耐食性(錆に対するタフネス)なんかをコントロールして行く分けです。こんなのを色々試して証明して行くのが冶金って事です。

ステンレスって性質であって種類じゃないので、ステンレスの中にもフェライト系、オーステナイト系、マルテンサイト系とカーボンスティールと同じように特性の違う鋼種を作る事が出来ます。脱線するけどフェライト系のステンレスって見た目錆びます。。。orz

残る953ですけど、Raynoldsの社内規格で鋼種としてはマルエイジング鋼です。つまり、日本刀と同じように鉄としては最強組織のマルテンサイトにしておいてその後熱処理で添加した合金成分から金属間化合物*5を微小に析出させて更に強度を高める。と言う合金成分+熱処理規格です。引っぱり強度が180kgf/mm^2(1mm×1mm断面の針金で180kgの錘をつり下げても切れない、おまけに多分ほとんど伸びない)位って言うのは本当に最強で、自動車の衝突でキャビンが潰れないようにする最重要骨格部品の材料強度よりも強いです。材料はドイツやフランスの限られたステンレス鋼材メーカーが供給してるんじゃないでしょうか?でも、量が限られるのでそう言う巨大メーカーではなくてどこか小さな特殊な炉でやってるのかな?ステンレス材では探したこと無いけどイギリスってそう言う凄い家内制工業レベルの会社が意外と生き延びてるので。

もうちょっと続く。。。

*1:Niが高価なので8%も入れるとかあり得ない

*2:ナノオーダーの薄い皮膜で、原子レベルで壊れても鉄中のCrが出て来てまた膜を作るので、あたかも壊れないように見える

*3:鉄原子をピンポン球に見立てて積み重ねて行くと、密度が高い積み重なり方と密度が低い積み重なり方が出来る事が分かります。それが体心立方格子と面心立方格子六方晶。。。まあ、ご参考まで

*4:細かい結晶、大きい結晶、一つの結晶構造、混ぜこぜの結晶構造。。。orz

*5:と書いてあった